【司法試験】平成29年 民事系 第1問(民法)設問1を出題の趣旨と採点実感から読み解く

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1 【事実】の整理

H14.4.1  A 柵立て(本件土地=乙土地+甲1部分+甲2部分)-更地

H16.9.15 A-C 本件賃貸借契約締結

H16.9.25 C-建築業者 請負契約

H16.10.1 A→C 本件土地引渡

H17.6.1  本件工事開始(乙土地+甲1部分=本件工事、甲2部分=工事関係者の駐車場・資材置場)

H18.2.15 丙建物(乙土地+甲1部分) 所有権保存登記、甲2部分=患者用駐車場(普通自動車3台分)

H27.4.20 B→C 所有権に基づき、甲1部分の明渡請求訴訟提起

 

2 設問の確認

Cは、Bが甲1部分を所有すことを認めた上で(指示1)

Bの請求の棄却を求める場合、

どのような反論をすることが考えられるか、

その根拠(指示2)

及びその反論が認められるために必要な要件を説明した上で、(指示3)

その反論が認められるかどうかを(指示4)

検討しなさい。

なお、丙建物の収去の可否及び要否について考慮する必要はない。

 

3 Bの請求の根拠

所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求

要件

B 甲1部分所有

C 甲1部分占有

 

4 Cの反論の根拠(設問の指示2)

(1)甲1部分のBの所有

認める(設問の指示1)。

(2)甲1部分のCの占有

Cは、甲1部分上にある丙建物を所有している以上、

「Cは甲1部分を占有していない」(否認)と争うことはできない。

(答案として求められていない)

 

(3)抗弁的な争い方

Cは甲1部分を占有しているが、権原に基づくという争い方が考えられる。

権原=賃借権

〔出題の趣旨〕

「Cは、Aから甲1部分を賃借しているが、

Aには甲1部分の所有権その他の賃借権原がないから、

この賃借権をもって所有者Bに対抗することはできない」

要するに、

「Cの占有はAC賃貸借契約に基づく」と主張しても、

もとのAに権原がないから所有者Bに対抗できない。

 

〔出題の趣旨〕続き

「そこで、Cは、甲1部分の賃借権の時効取得を主張することが考えらえる」

 

5 賃借権の時効取得が認められるために必要な要件の説明(設問の指示3)

〔出題の趣旨〕

「ここでは、実体法上の要件について説明をすることが求められており、

その対象はCが主張・証明責任を負う抗弁の要件事実に限られない」

 

〔出題の趣旨〕続き

「民法第163条・第162条第2項によると、

賃借権の10年の取得時効の要件は、

援用が必要である」

は、まとめると次のとおり。

 

(1)賃借権の10年間の取得時効の要件は、

「10年間」「賃借権を」「自己のためにする意思をもって」

「平穏に」かつ「公然と」「行使すること」、

賃借権の行使の開始時に「善意」かつ「過失がなかったこと」

 

(2)後の説明のために順番を入れ替えると、

「平穏」「公然」「善意」「無過失」

「自己のためにする意思をもって」

「10年間」「賃借権を」「行使すること」

 

(3)「賃借権を」「行使すること」は、

「物の使用及び収益」(民法第601条)をいう。

ただし、物の用益と(4)で述べる賃借意思が相まって

賃借権の行使の意味内容を示すという理解もある

(単純に物を使うのではなく、

(対価を払って)借りて使うという内容だとの理解であろうか)。

 

(4)「自己のためにする意思」は、

(賃借権の取得時効については)「賃借意思」として具体化される。

賃借意思の有無は、(「所有の意思」(民法第162条)の判断と同じく)、

占有取得の原因たる事実(権限の性質)によって客観的に定められる。

判例も、不動産の継続的な用益という外形的事実と、賃借意思の客観的表現を挙げている。

 

(5)時効の利益を受けるには、時効の援用(民法第145条)が必要。

 

6 Cの反論が認められるかどうか(設問の指示4)

(1)賃借権の時効取得は認められるか(一般論)

〔出題の趣旨〕

「判例(最判…)は、本問と同じく他人物が賃貸された事案において

賃借権の時効取得を認めているが、

かかる事案については賃借権の時効取得を認めない説もあり、

また賃借権の時効取得を一般的に否定する説もあるので、

賃借権の時効取得を一般的に認める場合にもそうでない場合にも、

その理由を挙げて検討する」ことが求められている。

 

(2)要件が充足されているか

① 用益の開始時期

〔出題の趣旨〕

「特に問題となるのは、Cが用益を開始した時点である」

 

〔出題の趣旨〕続き

「Cが甲1部分の占有を開始したのは平成16年10月1日であるが、

実際にその利用を開始したのは本件工事が始まった平成17年6月1日である」

 

さらに〔出題の趣旨〕続き

「前者が時効の起算点だとすると10年の時効が完成していることになるが、

後者が起算点だとすると10年の時効は完成していないことになる」

 

「そのため、Bによる時効中断の可能性と関連づけるなどして、

いずれの時点が時効の起算点となるかを検討する」

 

② 他の要件

〔出題の趣旨〕

「賃借意思の客観的表現とCの無過失という要件については、

その要件に当てはまる具体的事実を【事実】から拾い上げることが求められる」

 

これらは評価的あるいは規範的な要件なので、

「特に」具体的事実からの拾い上げが要求されている。

もっとも、答案では、他の要件すべてについて

【事実】から充足するかどうか検討する必要がある。

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