1 設問の確認
「Aは、本件土地賃貸借契約を解除することができるか」
「【事実】16の下線を付した①及び②の事実が
それぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討した上で、
理由を付して解答しなさい」
2 下線部①及び②の確認
(1)下線部①
「Cが丙建物をDに賃貸し、そこでDに診療所を営ませていること」
〔出題の趣旨〕
「賃借人がその土地の上に有する建物を
賃貸人の知らないうちに第三者に賃貸したときに、
賃借人はその上に建物がある土地部分を無断転貸したこととなり、
賃貸人は土地賃貸借契約を
民法第612条により解除することができるか」
(2)下線部②
「Cが甲2土地を診療所の患者用駐車場としてDに使用させていること」
〔出題の趣旨〕
「土地賃貸借契約の目的物たる土地に含まれるが
その上に建物がない部分についてはどうか」
3 関連判例・学説
(1)判例・通説に従う考え方
〔出題の趣旨〕
「土地賃借人がその所有する地上建物を第三者に賃貸しても、
その建物の「敷地」を転貸したことにならないとする判例がある
(大判昭和8年12月11日判決全集1輯3号41頁)」
「学説においても、同様に解するのが通説である」
「もっとも、本問の賃貸人Aによる解除が認められるかどうかについて、
この判例・通説に従うだけで一義的に答えが出るわけではない」
「判例・通説と同じ立場を採る場合であっても、
そこにいう『敷地』とは賃貸借の目的とされた土地のうち
どの土地部分を指すのかといった点の理解により、
Aの解除が認められうかどうか、
又はその結論となる理由が異なる可能性がある」
「本問に答えるためには、
『敷地』はどの範囲に及ぶか、その範囲となるのはなぜか
を考える必要があり、
これを考えるためには、
建物の賃貸によりその『敷地』について転貸がされたこととならないのはなぜか
を明らかにすることが必要になる」
(2)反対説の考え方
〔出題の趣旨〕
「これに対し、建物を利用するためには
その『敷地』の利用が必要となることから、
建物の賃貸はその『敷地』の利用権の設定を当然に伴うとして、
『敷地』についても転貸がされたと認めること(以下「反対説」という。)も、
論理的にはあり得る」
「反対説を採る場合には、
判例・通説の基礎を踏まえつつ、
そのように解すべき理由を明らかにすることが求められる」
〔採点実感〕
「判例等と異なる見解を採ること自体は、
その論理構成や理由が的確に論述されていれば何ら問題はないが、
その場合でも、判例等がそのような見解を採っている理由を踏まえた上で
論述をすることが望ましい」
4 解除の可否
(1)解除原因
〔出題の趣旨〕
「本問における事実関係の下では、
Cの無断転貸を理由とする民法第612条による解除」
〔採点実感〕
「なお、無断転貸による解除を認めるためには、
『賃貸人が…第三者に賃借物の使用又は収益をさせたこと』
が要件となる」
(2)下線部①を理由とする解除
〔出題の趣旨〕
「下線部①では、賃借人が借地上に所有する建物を第三者Dに賃貸した場合、
Cはそれにより民法第612条に違反したことになるかが問題となる」
「判例・通説は、…土地賃借人による地上所有建物の第三者への賃貸は
『敷地』の転貸に当たらないとしている。
これによると、下線部①の事実のみでは、
Aによる解除は認められない」
〔採点実感〕
「本設問において、
下線部①の事実が転貸に当たるか否かは、
Cの反論が認められるかどうかを分ける重要な論点となるのであるから、
判例等と同じ立場を採る場合でも
その理由を的確に論述する必要がある」
なお、反対説を採る場合には、
判例・通説の基礎を踏まえつつ、
反対説のように解すべき理由を明らかにし、
『敷地』の転貸がなされたとして、
下線部①を理由とする解除が認められる可能性がある。
(3)下線部②を理由とする解除
<判例・通説の立場で考える場合>
ア 考え方の分かれ道
〔出題の趣旨〕
「下線部②の事実は、
Dが、CD間の丙賃貸借契約によって、
本件土地のうちその上に建物がない土地部分(甲2土地)
も使用することを認められ、
現に使用していることを示している」
「甲2土地が判例・通説のいう建物の『敷地』に含まれるのであれば、
Aによる解除は認められない」
「甲2土地が『敷地』に含まれないのであれば、
Aによる解除が認められる可能性がある」
「そこで、甲2土地が『敷地』に含まれるのかどうかを、
そのように解する理由を付して明らかにすることが求められる」
イ 「敷地」に当たるかどうかの考え方
〔出題の趣旨〕
「これを考えるためには、
そもそも借地上建物の賃貸により
その建物の『敷地』が転貸されたことにならない理由
を明らかにする必要がある」
〔出題の趣旨〕引用後、その意味を考える。
「建物の使用は必然的にその敷地の使用を伴うとみて、
建物の賃貸による敷地の転貸を肯定することも論理的には可能である。
そうであれば、建物の賃貸による敷地の転貸の否定は
何らかの規範的判断の結果であることになり、
その規範的判断が敷地の範囲を画する基準(の1つ)
になるはずだからである」
要するに、
反対説を採ることも論理的には可能である。
それなのに反対説は採らずに、
建物を賃貸した場合でも敷地の転貸を認めないと考えることは、
何らかの規範的判断(価値判断)をしたためである。
その規範的判断(価値判断)が敷地の範囲を画する基準の1つになるはずだから、
建物の賃貸があっても「敷地」を転貸したことにならない理由を
明らかにする必要がある。
ウ 甲2土地が「敷地」に当たらず転貸が認められる場合
〔出題の趣旨〕
「Aによる承諾の有無が問題になる」
「Aがこの転貸につき個別の承諾をしたことを示す事実はない。
もっとも、Aは、本件土地を一団のものとして賃貸借契約の目的物とし、
その一団の土地につきCの建物所有を契約目的とする本件土地賃貸借契約を締結したことから、
包括的に、Cが敷地以外の土地部分につき
建物の使用とそれに付随する使用を建物賃借人にさせることを承諾していた
とすることも、論理的には成り立ち得る」
「ただし、その場合には、
甲2土地を敷地から除外したこととの論理的整合性が問題になる」
エ 甲2土地の転貸につきAの承諾がないとする場合
〔出題の趣旨〕
「更に不動産賃貸借契約について確立した法理である信頼関係破壊の法理に照らして
Aの解除が認められるかどうかを検討する必要がある」
「この検討に際しては、
まず、Aは、
無断転貸により信頼関係が破壊されたと認められる場合に解除することができるのか、
無断転貸があれば原則として解除することができるが、
信頼関係が破壊されたと認められない特段の事情がある場合には別であるとされるのか
(判例(最判昭和28年9月25日民集7巻9号979頁ほか)・通説はこの立場である。)
を、理由を付して明らかにすることが望ましい」
「その上で、信頼関係の破壊に係る判断に際して考慮すべき事実を拾い出し、
それらの事情を総合的に考慮した上で結論を出すことになる」
<反対説を採る場合>
〔出題の趣旨〕
「下線部②の事実は、
転貸範囲の拡大及び転借人による目的物の直接利用のために、
賃貸人Aに不利益を生じさせる危険が増大する、
という意味を持つことになる」
「このことを踏まえて、Aによる解除の可否を論ずる必要がある」
5 採点のポイント
〔出題の趣旨〕
「本問においては、
下線部①及び②が有する法律上の意義について
種々の考え方ないし立場があり得るところであり、
Aによる解除の可否の判断も異なり得る」
「それらの考え方ないし立場のうちいずれを採るか、
あるいは解除の可否につきいずれと考えるか
それ自体によって、評価の上で優劣がつけられることはない」
「評価に際しては、
どの考え方ないし立場を採る場合であっても、
あるいは解除の可否につきいずれの結論とする場合であっても、
その理由が説得的に述べられているかどうか、
その考え方ないし立場から
本問の事実を踏まえて
論理的にも実質的にも適切な結論が導かれているかどうかが重視される」
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