1 設問の確認
「Cは、Eの請求に対しどのような反論をすることが考えられるか」
「その根拠を説明した上で」
「その反論が認められるかどうかを検討しなさい」
2 EのCに対する請求
「Eは、Cに対し、本件土地の所有権に基づき、
丙建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める訴えを提起した」
3 占有権原の反論
〔出題の趣旨〕
「Cは、Eの請求に対し、
まず、占有権原(賃借権)があることをもって反論することが考えられる」
「本件土地賃貸借契約は、
建物所有を目的とするもので
借地借家法の適用があるため、
この反論は、甲1土地及び乙土地については、
Cが、Eの本件土地の所有権取得の登記に先立って、
甲1土地及び乙土地上に所有する丙建物につき
自己名義の保存登記を備えたことにより(借地借家法第10条第1項)、
認められることになる」
「これに対し、
甲2土地は、Eが現れた時点では、
【事実】12に記載の事情により
甲1土地及び乙土地とは別筆の土地となっており、
甲2土地につき借地権の登記(民法第605条)がされたことを示す事実はなく
(この点は、甲1土地及び乙土地についても同じである。)、
また、その上に建物が存在しないため
借地借家法第10条第1項が適用されることもない」
「したがって、Cは、本来、
賃借権をもってEに反論することができないものと考えられる」
4 他の反論
(1)他の反論を検討する契機
〔出題の趣旨〕
「本件土地賃貸借契約は、もともと甲1土地及び乙土地のほか
甲2土地を含む一筆の土地を目的として締結されたものである」
「また、本件土地の周りには行動に面する南側を除いて柵が張り巡らされているから、
甲2土地は、外形上も、甲1土地及び乙土地と一段の土地を成している」
「さらに、甲2土地は丙建物を利用するために不可欠とはいえないが、
甲2土地を利用することができなければ、
丙建物の経済的効用が減じられ、
Dの診療所の患者も不便を強いられる可能性もある」
「こういった事情に鑑みれば、
甲2土地についても、
Eの請求に対してCに何らかの反論が認められないかを検討する必要がある」
(2)考えられる反論
<基本的な考え方>
〔出題の趣旨〕
「仮にCの反論が認められる場合には、
Cは特別の保護を受ける一方で、
Eはその所有権の行使を例外的に制限されることになる」
「そのため、Cの反論が認められるのは、
Eにおいてその要は制限を受けても仕方がないと認められる事情があるときに限られる」
<法律構成>
〔出題の趣旨〕
「このようにEの主観的事情を考慮してCが保護されるかどうかを判断する構成としては、
① Eの請求が権利濫用に当たるかどうかを判断するもの
(以下「権利濫用構成」という。)と、
② CE間の争いをEがCの賃借権の対抗要件の不存在を主張するものと見て、
Eがその主観的事情において対抗要件の不存在を主張する正当な利益を有しない者
(民法第177条の『第三者』から除外される者に相当するもの)
に当たるかどうかを判断するもの(以下「対抗関係構成」という。)があり得る」
なお、〔出題の趣旨〕では、第三の考え方も紹介されている(後述)。
(3)権利濫用構成
〔出題の趣旨〕
「判例は、本問のような場合に、
別筆の隣地上にある丙建物の登記により
甲2土地についても賃借権の土地取得者に対する効力が認められることはないとした上で
(…最判平成9年7月1日民集51巻6号2251頁)、
権利濫用構成を採用している(前掲最判平成9年7月1日)」
「もっとも、別の構成(対抗関係構成)も成り立ち得ると考えられる場合に
権利濫用構成を採るのであれば、
その理由を示すことが望ましい」
「例えば、『Cの賃借権は、
土地を目的とするものであっても債権であり、
賃借権の登記又は借地上に所有する建物に自己所有名義の登記を備えることによって
初めて土地取得者であるEに対する効力が認められる。
そのため、Cが上記の登記を備えていない場合には、
そもそもEとの間で対抗関係は生じない。
したがって、この場合には、
Eは、所有権に基づいて甲2土地の明渡しを請求することができることになるが、
この請求は権利行使の一種であるから、
例外的に権利濫用を基礎づける事情がある場合には
その権利行使が否定され得る。』
というように実質的な理由を示すことが望まれる」
「Eの主張の権利濫用該当性を検討する場合には、
権利濫用の判断枠組みを述べ、
その枠組みの下で本問の諸事情に照らして
結論を述べることが求められる」
「権利濫用の一般的な判断枠組みについては、
権利の行使と認められることにより権利者が得る利益
(又は権利濫用とされることにより権利者が受ける不利益)の程度と
その権利の行使により他の者又は社会が受ける不利益の程度を
比較衡量し、
さらに、権利者の主観的態様も併せて総合的に判断する、
という考え方が判例・学説上定着している」
「これ以外の枠組みを採ることが否定されるものではないが、
別の枠組みを採るのであれば、
定着した考え方をあえて否定する理由を示す必要がある」
(4)対抗関係構成
〔出題の趣旨〕
「対抗関係構成は、
Cの権利がEに対してもその効力を有することが前提となっており、
ただ、対抗要件が備わっていないために
Eに対してその効力を主張することができない、
と法律構成するものである」
「しかし、Cの権利は賃借権であり、
賃借権は、それが不動産に関するものであっても
債権であるとするのが民法の前提である。
そうであれば、対抗関係構成を採用する場合には、
この民法の前提をどのように考えるかを
まず説明することが望まれる」
「Eの請求の可否を対抗関係構成により判断する場合には、
まず、対抗要件制度の趣旨に照らし、
その主観的態様のため対抗要件の不存在を主張することができない第三者につき
一般的な立場を示した上で、
本問の諸事情の下でどのように解すべきかを検討する必要がある」
「対抗関係構成の下でEがその主観的態様により
例外的に第三者性を否定されることがないかどうかを検討するのは、
Cの賃借権を特別に保護すべき場合に当たるかどうかの判断をするためである。
そのため、Eの主観的態様による上記検討に関して、
不動産賃借権の特別の保護と
そのための要件設定の趣旨が
どのような意味を持つかを考慮することが望ましい」
(5)第三の考え方
〔出題の趣旨〕
「以上の考え方とは異なり、
借地借家法第10条第1項の趣旨の理解次第で、
C名義の丙建物の登記により
甲2土地についても
Cがその賃借権をEに主張することが認められる
(本問でいえば、丙建物の登記による甲2土地への賃借権の甲土地の拡張を認める)
とすることも考えられる」
「もっとも、これは本則に対する例外を認めようとするものであるから、
そのような論理を展開するのであれば、
例外を正当化するに足る十分な根拠を挙げ、
かつ、その根拠に照らして例外が認められるべき範囲を明らかにした上で、
甲2土地についてのCの賃借権の主張が
その例外に該当することを述べる必要がある」
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