【司法試験】平成30年 民事系 第1問(民法)設問3を出題の趣旨と採点実感から読み解く

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1 事実関係の確認

H30.1.20 C死亡

積極財産 定期預金 1200万円、600万円、200万円(合計2000万円)

消極財産(債務) Bに対する借入金債務 300万円(H30,1.31期限)

Cの子 F、G、H(H27 排除の審判確定)

H30.1.31 B→F 借入金債務の請求、 F 300万円支払

H30,3,1 本件遺言判明(H30.1.1付)

H30.5.7 本件遺言検認

 

2 問題文の確認

「Fは、CがBに対して負っていた借入金債務300万円を全額支払ったことを根拠に、

Gに対し、いくらの金額を請求することができるか」

 

条件(ヒント)

本件遺言の解釈をすること

理由付けすること

利息・遅延損害金は考慮しないこと

 

3 本件遺言の内容(【事実】20)

「① 私が残す財産は、1200万円、600万円及び200万円の定期預金である」

「② 遠方に住みながらいつも気にかけてくれたFには、Gよりも多く、

1200万円の定期預金を相続させる」

「③ Gには600万円の定期預金を相続させる」

「④ Hは、まだ反省が足りていないので、排除の意思を変えるものではないが、

最近結婚をしたことから、200万円の定期預金のみを与える」

 

4 本件遺言の解釈

(1)解釈の指針の一般論

〔出題の趣旨〕

「Cの遺言(以下「本件遺言」という。)の解釈に当たっては、

どのような指針に基づいて解釈すべきか」

 

〔出題の趣旨〕続き

「例えば、『被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、

……遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものである』

(最判平成3年4月19日民集第45巻4号477頁参照)などと

必要に応じて簡潔に言及することが求められる」

 

(2)相続させる遺言

<FGに対する遺言>

本件遺言(対FG)

法定相続分とは異なる割合で特定の財産を「相続させる」遺言

 

[考え方1]

〔出題の趣旨〕

「FGに対する『相続させる』遺言に関しては、

判例が、特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』遺言は、

①相続人に対し、特定の財産を

単独で相続させようとする趣旨に解するのが合理的な意思解釈であって、

特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではないとし、

②かかる『相続させる』趣旨の遺言は、特定の遺産を特定の相続人に

単独で相続により承継させることを遺言で定める点で、

正に民法第908条にいう『遺産の分割の方法を定めた遺言』である

としている」

 

〔出題の趣旨〕続き

「この判例の立場を前提とすれば、

共同相続人FGに対し、1200万円・600万円の定期預金を

それぞれ『相続させる』遺言は、

『遺産分割方法の指定』と意思解釈するのが合理的であることになる」

 

①について

Cが持っていた定期預金を次のように仮定する。

1200万円・・・A銀行

600万円・・・B銀行

300万円・・・C銀行

「相続人に対し、特定の財産を単独で相続させようとする趣旨」

F(特定の相続人)にA銀行の1200万円の定期預金(口座-特定の財産)を

相続させるという意味であり、

合計2000万円の預金債権から1200万円分を相続させる

という意味ではない。

 

「遺贈と解すべきではない」

出題の趣旨の後半で紹介されている

「『相続させる』遺言を『特定遺贈』と解釈する学説」との対比。

債務の承継まで考えると、

相続なのか遺贈なのかで違いが出てくる(詳細は後述)。

 

②について

民法第908条

「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、

若しくはこれを定めることを第三者に委託し、

又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、

遺産の分割を禁ずることができる」

 

さらに、

〔出題の趣旨〕

「『遺産分割方法の指定』については、法定相続分よりも多い割合で分割の指定がされたり、

各共同相続人に対し法定相続分とは異なる割合で分割の指定がされた場合には、

特段の事情がない限り、『相続分の指定』(民法第902条)を伴うものと解釈するのが一般的である」

 

民法第902条第1項

「被相続人は、前二条規定にかかわらず、

遺言で、共同相続人の相続分を定め、

又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない」

 

〔出題の趣旨〕

「法定相続分とは異なる割合による遺産分割の指定がされたことは、

債務の承継割合を法定相続分から変更する意思がないことが明らかであるなどの

特段の事情がない限り(最判…)、その分割された割合で『相続分の指定』がされて、

債務もその割合で承継させる趣旨に意思解釈するのが合理的でると考える立場であ」る。

 

〔出題の趣旨〕続き

「このような立場を取るならば、共同相続人FGに対し

法定相続分とは異なる割合で1200万円・600万円の定期預金を

それぞれ『相続させる』とする本件遺言は、

『相続分の指定』を伴うものと解釈することになる」

 

〔採点実感〕によると、

「遺産分割方法の指定」よりも「相続分の指定」を伴うのかの方が

重要なポイントである。

 

[考え方2]

〔出題の趣旨〕

「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』遺言を

『特定遺贈』と解釈する学説も少なくない」

 

「このような説に立って論ずるに当たっては、

上記の『相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定』

と解する立場に対する批判を踏まえた議論を展開」することになる。

 

「例えば、『遺産分割方法の指定』は、

本来は、現物分割・換価分割などの遺産全体の分割方法の指定を定めるものであって、

特定の財産の処分は特定遺贈によることが

民法の予定するところである

ことを指摘することが考えられる」

 

[考え方3]

〔出題の趣旨〕

「このほか、上記の各立場も踏まえつつ、

本件遺言は、飽くまでも個別の積極財産を処分したに過ぎない点などを考慮して、

遺言者には債務の承継割合までを変更する意思はなく、

法定相続分の割合で承継すると解釈することも、

答案として許容される」

 

考え方は複数あり、それ自体に差はないが、

理由付けにより評価が分かれるものと考えられる。

 

<Hに対する遺言>

〔出題の趣旨〕

「Hは排除(民法第892条)により相続資格を失っていたこと、

したがって、200万円の定期預金を『与える』遺言は、

相続人以外の者に対する遺言による特定の財産の処分であるから、

特定遺贈と解釈される」

 

〔出題の趣旨〕続き

「本件遺言において排除の意思に変わりがないと

Cがしていることに照らして、

排除の取消し(民法第894条第2項)の趣旨を含むものではなく、

相続資格を失ったままであることに言及することが望ましい」

 

〔採点実感〕によると、

Hが排除されていることが前提とあり、

FGに対する遺言の解釈よりも前に指摘してよいようである。

 

5 債務の承継

(1)債務を承継する者

Hは、排除されており、相続人の資格がないので、

債務を承継する立場にない。

債務を承継する者は、FとGである。

 

(2)FとGの債務の承継

〔出題の趣旨〕

「共同相続人は、

法定相続分に応じて相続人の権利義務を承継するのが原則であるが(民法第899条)、

指定相続分(民法第902条)がある場合は指定相続分に応じて承継する」

 

[考え方1]のように本件遺言が相続分の指定を伴うものだと考える場合には、

F:G=1200万円:600万円=2:1の割合で債務も承継する。

 

本件遺言が相続分の指定を伴うものだとは考えない場合には、

法定相続分どおり=F:G=1:1の割合で債務を承継する。

 

6 承継の態様

[考え方A]

〔出題の趣旨〕

「CはBに対し300万円の金銭債務(可分債務)を負っていたことから、

判例(大決…)の立場を前提とすれば、

民法第427条により、

共同相続人FG間では上記の割合に応じた分割債務として承継する」

 

上記の割合 F:G=2:1または1:1

 

[考え方B]

〔出題の趣旨〕

「金銭債務(可分債務)の共同相続について、

不可分債務又は合有債務と解する学説も有力であ」る。

 

この考えに立つ場合は、

〔出題の趣旨〕

「分割債務説を批判しつつ、これらの学説に立った検討を加えること」

が求められる。

 

7 Fの請求

Cの債務300万円

仮にF:G=2:1の割合で債務を負担していたとすると、

Fの債務 200万円

Gの債務 100万円

 

しかし、Fは300万円をBに支払っている。

したがって、

〔出題の趣旨〕

「Fは、Gが単独で負う債務までBに弁済している」

 

[考え方A]の場合

〔出題の趣旨〕

「これは、債務者の意思に反するもの(民法第474条第2項)とはいえないので、

FはGに対し、事務管理を理由として」

払い過ぎた分(2:1の場合には100万円、1:1の場合には150万円)を
請求することができる。

 

[考え方B]の場合

〔出題の趣旨〕

「この場合には、内部的負担部分は、

法定相続分又は指定相続分に応じて定められ(民法第899条参照)、

その負担部分を超える額について

FはGに求償することができる」

 

〔採点実感〕によると、

請求の根拠(事務管理等または求償権に基づく)を

ごく簡潔に指摘することが必要である。

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