【司法試験】平成30年 公法系 第2問(行政法)設問1の(1)を出題の趣旨と採点実感から読み解く

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1 設問の確認

「B市長が本件申請に対して本件許可処分を行い、

D及びEが本件許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起した場合について」

「D及びEは、上記取消訴訟の原告適格があるとして、

それぞれどのような主張を行うと考えられるか。

また、これらの主張は認められるか。

B市が行う反論を踏まえて、検討しなさい」

 

2 D及びEの属性

(1)Dの属性

本件土地から約300メートル離れた位置にある土地には宗教法人Dの事務所が存在している。

Dは、同所で約10年前から小規模な墓地を経営していた。

Dは、本件説明会の開催後、…自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれがあると考えた。

Dの代表者は、…本件申請に対するB市長の許可処分を阻止しようと考えた。

 

(2)Eの属性

Eは、B市内で障害福祉サービス事業を営む法人である。

Eは、Dから、本件土地から約80メートル離れた位置にあるD所有土地に、

Eの障害福祉サービスの事業所を移転するよう求められた。

Eは、特に移転の必要性はなかったが、D所有土地を借り受けて本件事業所を設置し、

平成30年3月23日、D所有土地に事業所を移転した。

本件事業所は、

「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」

に定められた要件に適合する事業所で短期入所用の入所施設を有しており、

本件条例第13条第1項第2号の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る)」

に該当する。

本件事業所は、…定員に近い利用者が日常的に利用し、

また、数日間連続して入所する利用者も見られた。

 

(3)DとEの関係

Dの代表者とEの代表者は親族関係にある。

 

3 Dの原告適格

(1)D・Eの本件申請に対する許可をしないよう求める旨の申入れの内容の①

本件墓地が大規模であるため、B市内の墓地の供給が過剰となり、

Dの墓地経営が悪化し、廃業せざるを得ないこともあり得る。

 

(2)【検討会議の会議録】

弁護士F②(この数字は発言者に関係なく何回目の発言かという意味):

法第10条第1項の具体的な許可要件や手続を定める条例の法的性質については、

…本日の検討では、本件条例は法第10条第1項の許可要件や手続につき、

少なくとも最低限遵守しなければならない事項を具体的に定めたものである

という前提で検討することにしましょう。

 

弁護士F④:

D及びEに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。

…D及びEは、本件許可処分が行われた場合、それぞれどのような不利益を受けると考えて取消訴訟を提起しようとしているのでしょうか。

 

環境部長⑤:

まず、Dについては、既にDの墓地は余り気味で、空き区画が出ているそうです。

本件墓地は規模が大きく、本件墓地の経営が始まると、

Dは、自らの墓地経営が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。

墓地経営には公共性と安定性が必要であり、墓地の経営者の経営悪化によって、

墓地の管理が不十分となることは、法の趣旨目的から適切ではないと考えることもできるでしょうね。

 

弁護士F⑥:

…そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要がありそうです。

 

(3)〔出題の趣旨〕

「本問で論じられるべき第1の問題は、

…本件墓地の近隣で別の墓地を経営している宗教法人D…に、

本件許可処分に対して取消訴訟を提起する原告適格が認められるかである(設問1(1))」

 

「本問では、DとEは、それぞれ本件許可処分の名宛人ではなく、第三者であることから、

行政事件訴訟法第9条第1項と同条第2項の基準に基づいて、

原告適格に関しどのような主張がなされるのか、

また、原告適格は認められるのかを、B市からの反論を踏まえて検討することが求められている。

 

「Dの原告適格の検討に当たっては、既存の墓地の経営主体であるDが、

本件墓地によって経営上悪影響を受けることを理由に、

原告適格が認められるのかを論じることとなる」

 

「法第1条は、公衆衛生や宗教感情の保護等を法目的としているが、

既存の墓地の保護については特に触れるところはない」

 

「しかし、本件条例第3条第1項が墓地の経営主体を原則として地方公共団体としていることや、

本件条例第9条2項の経営許可に関する要件を定めた規定により、

法や本件条例がその趣旨目的として墓地経営の安定を求めていると考えることもできることから、

墓地経営許可に際して、既存の墓地の利益保護が考慮されているかどうかを論じることが求められる」

 

(4)〔採点実感〕

「処分の名宛人以外の第三者であるD、Eに原告適格が認められるかどうかの検討に当たって、

第三者の原告適格の判断枠組みを適切に提示し」

 

「Dが既存の墓地の経営者であること…を踏まえ、D…について、

手掛かりとなる本件条例等の規定を挙げて根拠法令の趣旨目的を検討し、

また、考慮される損害の性質程度も踏まえて被侵害利益の内容性質を検討した上で、

D…の原告適格の有無についての結論を導いている」

 

「これに加えて、例えば、手掛かりとなる本件条例等の規定の内容を踏まえ、

その規定からDの墓地経営に関する利益…などを保護することが

根拠法令の趣旨目的に含まれるかどうかを説得的に論じ、

また、考慮される損害の性質程度について

事案を踏まえ具体的かつ詳細な検討がされている」

 

「さらに、例えば、手掛かりとなる本件条例等の規定を複数挙げるなどして、

根拠法令の趣旨目的や費侵害利益の内容性質について

多面的に検討を加えているもの」

などが書かれた答案はプラスの評価とされている。

 

「行政事件訴訟法第9条2項の文言からすれば、

まずは原告が処分の相手方以外の者であることを確認することが出発点である」

 

「単に原告適格の判断枠組みを提示するのみならず、

その内容を理解した上で、事案に即した検討を行うことが求められる」

 

「DとEのそれぞれの原告に対応した保護規定と被侵害利益の整理が正確にされず、

別の原告に関する保護規定や被侵害利益を誤って挙げている答案が少なくなかった。

今回登場する原告らの立場は明確に区別できるものである一方、

関係規程はやや多かったのでこれを原告ごとに適切に整理することには

一定の学習水準が求められる」

 

「Dが本件土地から約80メートルの場所に土地を所有していることをもって

原告適格を認める答案もあったが、財産権保有ということと、

本件の関係法令との関係が論じられておらず、

思考過程が分かり難い答案となっていた」

 

4 Eの原告適格

(1)D及びEの申入れの内容

② 本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあり、

本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する。

 

③ 本件墓地の経営が始まることにより、本件事業所周辺において、

本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ、

本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある。

 

(2)【検討会議の会議録】

弁護士F④:

Eに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。

Eは、本件許可処分が行われた場合、…どのような不利益を受けると考えて

取消訴訟を提起しようとしているのでしょうか。

 

環境部長⑦:

Eについては、D所有土地に本件事業所を置いています。

Eは、本件墓地の経営が始まることにより、本件事業所周辺において、

本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ、

本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。

本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので、

その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります。

(周辺住民が指摘した生活環境及び衛生環境の悪化とは

「本件土地得周辺の道路の幅員はそれほど広いものではないため、

墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること、

供物等の放置による悪臭の発生

並びにカラス、ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど、

生活環境及び衛生環境の悪化」のこと。

 

(3)〔出題の趣旨〕

「障害福祉サービス事業を行う法人Eに、本件許可処分に対して

取消訴訟を提起する原告適格が認められるか」

 

「Eは、…本件許可処分の名宛人ではなく、第三者であることから、

行政事件訴訟法第9条第1項と同条第2項の基準に基づいて、

原告適格に関しどのような主張がなされるのか、

また、原告適格は認められるのかを、

B市からの反論を踏まえて検討することが求められている」

 

「Eの原告適格の検討に当たっては、

Eは障害福祉サービス事業を行う事業所を運営していることから、

本件墓地の経営によって、

衛生環境や生活環境の悪化を理由に原告適格が認められるのかが問題となる」

 

「本件条例第13条第1項や第14条第1項等を手掛かりとして、

法や本件条例が、Eの事業所に対して、障害福祉サービス事業を行う事業所として、

適切な環境の下で円滑に業務を行う利益を保護しているかを論じることが求められる」

 

(4)〔採点実感〕

「処分の名宛人以外の第三者である…Eに原告適格が認められるかどうかの検討に当たって、

第三者の原告適格の判断枠組みを適切に提示し」

 

「Eが…本件条例…第13条第1項第2号に該当する施設の経営者であることを踏まえ、

…E…について、手掛かりとなる本件条例等の規定を挙げて根拠法令の趣旨目的を検討し、

また、考慮される損害の性質程度を導いている」

 

「これに加えて、例えば、手掛かりとなる本件条例等の規定の内容を踏まえ、

その規定から…Eの本件事業所運営を適切な環境の下で円滑に行う利益などを保護することが

根拠法令の趣旨目的に含まれるかどうかを説得的に論じ、

また、考慮される損害の性質程度について

事案を踏まえ具体的かつ詳細な検討がされている」

 

「さらに、例えば、手掛かりとなる本件条例等の規定を複数挙げるなどして、

根拠法令の趣旨目的や費侵害利益の内容性質について多面的に検討を加えているもの、

設置許可の対象となる施設に関していわゆる位置基準を定めた規定がある場合の

当該施設の周辺に居住する者等の当該設置許可処分の取消しの訴えに係る原告適格について判示した

最高裁判所平成21年10月15日判決(民集63巻8号1711頁)

に言及して検討がされているもの」

などが書かれた答案は、プラスの評価とされている。

 

「行政事件訴訟法第9条第1項と同条第2項の文言からすれば、

まずは原告が処分の相手方以外の者であることを確認することが出発点」

 

「単に原告適格の判断枠組みを提示するのみならず、

その内容を理解した上で、事案に即した検討を行うことが求められる」

 

「DとEのそれぞれの原告に対応した保護規定と被侵害利益の整理が正確にされず、

別の原告に関する保護規定や被侵害利益を誤って挙げている答案が少なくなかった。

今回登場する原告らの立場は明確に区別できるものである一方、

関係規程はやや多かったのでこれを原告ごとに適切に整理することには

一定の学習水準が求められる」

 

「Eの原告適格の有無の検討において、本件条例の規定にほとんど触れず、

Eの受ける損害について論じた上で(例えば、生活環境の悪化によって

何らかの声明身体への侵害があるとして)、直ちに原告適格の存在を認めている

…ような答案の多くは、Eの原告適格については最も手掛かりになるはずの

距離制限規定にはほとんど触れていないことになり、

原告適格に関する論述についてややバランスを欠いたものとなってしまう」

 

「考慮される損害の性質程度の検討では、Eについて、

事業者としての業務上の不利益と利用者の生活・衛生環境上の不利益との区別を

明確に意識しないままに論じている答案もあった」

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