判例の引用などがあることから、設問1より長文化されているが、
配点は、設問1=40%、設問2=35%なので、
答案の分量も配点に比例させるべき。
[小問1]
1 問題文の確認
「Eの【事実】14の撤去の請求に関し、
【事実】14の下線を付した㋐のDの発言は正当であると認められるか」と
その「理由」が問われている。
Eの撤去の請求
同年(平成30年)3月10日、Eは、Dに、
甲トラックが丙土地(Eの所有する土地【事実】13)上に放置されている事実を伝え、
甲トラックの撤去を求めた。
下線ア
「Aとの間で所有権留保売買契約したので、私は甲トラックを撤去すべき立場にない」
2 問題の所在
〔出題の趣旨〕
「所有権に基づく妨害排除請求の相手方は現に妨害をしている者であることを前提として、
所有権留保売買契約の売主として留保所有権を有する者はこれに当たるか」
「Eの請求が所有権に基づく請求であること、
この請求の相手方は所有権の行使を現に妨げている者であることを前提として、
甲トラックの所有権留保売買における留保売主Dは、
甲トラックが丙土地上に放置されていることによって
Eの丙土地所有権の行使を妨げていることになり、
したがって、甲トラックの撤去義務を負うかどうかが問われている」
「物の所有者は、その物が他人の土地上にある場合には、
権原がなければ、通常、その者の撤去義務を負う。
ところが、Dは、Aとの間で所有権留保売買契約をしたことにより、
通常の所有権を有する者ではなく、
譲渡担保の目的で所有権を有するに過ぎない。
そこで、このような立場にあるDが所有者一般と同様に扱われるか否かを論ずべきことになる」
Eは、自己所有の丙土地に、「Dが所有する自動車」が放置されているから、
Dによって丙土地の所有権の行使が妨げられているとして、Dを相手方としている。
これに対し、Dは、
「Aとの間で所有権留保売買契約したので、私は甲トラックを撤去すべき立場にない」(下線㋐)
と反論している。
所有権留保売買契約は「Dが所有する自動車」に影響を与えるか、
与えるとしてどのような影響か、「所有」の意味(中身)をどう考えるか。
〔採点実感〕
「所有権に基づく妨害排除請求権が問題となるところ、
その点の指摘がないものや、
妨害排除請求権の相手方となるべき者が抽象的に言えばどのようなものであるのかについて
分析がされていない答案が多く見られ」
「論述の前提となるべき事項を的確に押さえていない傾向が見られた」
妨害排除請求権の相手方となるべき者を抽象的に表現することが求められていたようである。
4 考え方①
Dは妨害排除請求の相手方にならないとの考え
〔出題の趣旨〕
「AD間の契約において、被担保債権の不履行があるまでは、
甲トラックの占有・処分権能を有するのはAであり、Dはこれを有しない」
占有については、【事実】10の④の約定、
処分については、⑤の約定(債務不履行があったら当然期限の利益喪失、
A→D甲トラックの返還、売却とあるので、
債務不履行まではAが処分権能を有すると読むことになる。
ただし、債務不履行または代金の完済まではDもAも処分権が制限される
(売却してはいけない)という合意があると理解もできるのでは?
〔出題の趣旨〕
「Dは、甲トラックの交換価値しか把握していないとみることができる」
「これによると、Dは、形式的には甲トラックの所有者であるが、
実質的には抵当権者と変わりがないとみることができ、
抵当権者であれば抵当目的物による妨害排除請求の相手方にはならない」
5 考え方②
Dは妨害排除請求の相手方になるとの考え
〔出題の趣旨〕
「上記①のようなDの地位は、AD間の契約によって創設されたものである」
「したがって、Dの甲トラックの占有・処分権能は、
Aとの契約によりAとの関係で制約されているに過ぎないとみる余地がある。
実際にも、例えば甲トラックを不法占有する者がある場合、
その者との関係では、
Dは所有権に基づく返還請求をすることができるとされる可能性がある」
AD間の契約はAD間で効力を有するが、
第三者Eを拘束するものではないという発想。
考え方①を紹介した上で、これに反対するという答案の流れになる。
6 考え方③
Dは妨害排除請求の相手方になるとの考え
〔出題の趣旨〕
「Dは、甲トラックに抵当権(自動車抵当権)を設定することもできたのに
あえて所有権留保という担保手段を選んだものであって、
所有者と同様に扱われることはDの選択の結果であるにすぎない」
7 最判平成21年3月10日民集第63巻3号385頁
(1)判決の内容
<事実の概要>
H15.10.29 X→A 本件土地を本件車両の駐車場として賃貸した。
同年11.22 A-信販会社Y Aが自動車販売店から購入する自動車の代金をYが立替払する契約(立替払契約)
本件立替払契約の内容
Yは、自動車購入代金を立替払し、
AはYに立替払により発生する債務(立替払金債務)を頭金のほか60回に分割して支払う。
本件車両の所有権は、自動車販売店からYに移転し、Aが立替払金債務を完済するまで
担保としてYに留保される。
Aは自動車販売店から本件車両の引渡しを受け、善良な管理者の注意をもって本件車両を管理し、
本件車両の改造等をしない。
Aは立替払債務について、分割金の支払を怠ってYから催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったときなどは、
当然に期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに支払う。
Aは期限の利益を喪失したときは、事由の如何を問わず、
Yが留保している所有権に基づく本件車両の引渡請求に異議なく同意する。
YがAから本件車両の引渡しを受け、売却したときは、
売却額をもって立替金債務の弁済に充当する。
Aは立替払金債務の不払を続けている。
H16.12~ A→X 駐車場の賃料 不払
H18.5.10 X→A 駐車場賃貸借契約 解除
駐車場賃貸借契約終了後も、駐車場に本件車両が駐車されている。
X→Y 本件自動車の撤去と駐車場の明渡し等を求める。
<要旨>
動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで
同債務の担保として当該動産を留保する場合において、
所有権を留保した者(以下、「留保所有権者」といい、
留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が、
期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という)
の到来の前後で上記のように異なるときは、
留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、
当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、
特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、
残債務弁済期が経過した後は、
留保所有権が担保権の性質を有するからといって
上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。
なぜなら、上記のような留保所有権者が有する留保所有権は、
原則として、残債務弁済期が到来するまでは、
当該動産の交換価値を把握するにとどまるが、
残債務弁済期の経過後は、当該動産を占有し、
処分することができる権能を有するものと解されるからである。
(2)本件では
銀行口座にはAから毎月4万円の振込が滞りなくされていたこともあり(【事実】14)
(なお、当然だが、Eが撤去を求めた平成30年3月10日は、Aの分割払の完済前)
→ Dに撤去義務なし
〔出題の趣旨〕
「単に同判決があることや、その内容を指摘しても十分な解答にはならず、
理由付けの内容が問われるものである」
[小問2]
1 問題文の確認
仮にアのDの発言が正当であると認められるものとした場合
〔出題の趣旨〕
「これは、甲トラックの通常の所有権を有していたDが、
Aとの所有権留保契約により甲トラックの所有権を実質的に喪失したことを前提として、
設問2を考えるべきことを意味するから、まずこの点を押さえる必要がある」
「Eの請求は認められるか、【事実14】の下線を付したイのDの発言を踏まえつつ、
理由を付して解答しなさい」
下線部イ
「登記名義はまだ私にあるが、そうであるからといって、
私が甲トラックの撤去を求められることにはならない」
〔出題の趣旨〕
「その者が妨害物となっている自動車を以前所有しており、
自己の意思に基づいて登録名義人となった者であって、
その自動車を譲渡した後も登録名義人にとどまっている場合」
このような場合にDを所有権に基づく妨害排除請求の相手方にすることはできるか。
2 参照条文
「登録を受けた自動車の所有権の喪失は、登録を受けなければ、
第三者に対抗することができない」
〔出題の趣旨〕
「設問2の事実関係の下で、Eは、その『第三者』に該当し、
又は『第三者に準ずる者』として扱われるのかを、論ずべきことになる」
3 第三者
〔出題の趣旨〕
「道路運送車両法第5条第1項は、民法177条と同趣旨の規定であることから、
『第三者』とは、登録の不存在を主張する正当な利益を有する者をい」う。
〔出題の趣旨〕続き
「隠れた物権変動により第三者が害されることを防ぐという同条の趣旨から、
当該物件につき登録名義人との間で法律上の利害関係を有するに至ったことが、
第三者性を基礎づける『正当な利益』に当たると解される。
答案では、
「第三者」(道路運送車両法第5条第1項)とは~正当な利益を有する者をいう。
ここでいう「正当な利益」とは~という趣旨から~をいう。
と単文を重ねた方が読みやすい。
4 第三者該当性
〔出題の趣旨〕
「これによると、Eは、第三者には基本的に該当しない」
〔出題の趣旨〕続き
「Eが甲トラックにつき有する利害関係は、甲トラックの所有者が判明しなければ
丙土地の所有権に対する妨害を除外することができないという不利益を被ることであり、
Eは、甲トラックにつき、権利を取得すべき地位にあるなど
何らかの法律上の利害関係を有するわけではないからである」
さらに〔出題の趣旨〕続き
「もっとも、判例(…)上、…とされている」
さらに〔出題の趣旨〕続き
「登録自動車については不動産と同様の法的扱いがされることが多いことから、
Dについても同様の立論が可能であるかどうかが問題になる」
5 判例のおさらい
最判平成6年2月8日民集第48巻2号373頁
「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、
現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、
土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである」
「もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が
自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、
たとい建物を他に譲渡したとしても、
引き続き右登記名義を保有する限り、
土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して
建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」
「けだし、建物は土地を離れては存在し得ず、
建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、
土地所有者としては、
地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するものであって」
「土地所有者が建物譲渡人に対して
所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、
土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、
あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、
建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、
右と地所所有者との関係においては、
建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである」
「もし、これを、登記に関わりなく建物の『実質的所有者』をもって
建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、
土地所有者は、その探求の困難を強いられることになり、
また、相手方において、
たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になる
という不合理を生ずるおそれがある」
「他方、建物所有者が真実素の所有権を他に譲渡したのであれば、
その旨の登記を行うことは通常さほど困難なこととはいえず、
不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、
登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、
その建物の収去義務を否定することは、
信義にもとり、公平の見地に照らして許されないものといわなければならない」
5 判例(建物の事案)と同様に考えてよいか
(1)論じる上でのポイント
〔出題の趣旨〕
「結論はいずれでも構わないが、
その結論を導く理由についての法的な構成力が問われている」
〔出題の趣旨〕続き
「検討の道筋としては、前掲…判決が地上建物による土地所有権の妨害の場合に
土地所有者を例外的に保護していることから、
その例外的保護の理由を明らかにして、
それとの比較をすることが考えられる」
さらに〔出題の趣旨〕続き
「これに限られるものではなく、
次に述べるような必要な考慮要素に触れられていることが必要である」
(2)例外的保護が認められる理由
〔出題の趣旨〕
「① 建物の存立は、敷地の全面的・固定的占有を当然に伴うため
土地所有者は土地の占有という土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態が
継続することが挙げられる」
前記判例の「けだし」から続く部分とリンクする。
〔出題の趣旨〕続き
「他方で、登録自動車による土地所有権の妨害は、
全面的なものでも、固定的なものでもなく、
土地所有者は、その妨害により土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になる
とまで評価することはできないともいえる」
〔出題の趣旨〕
「② 一般に、民法第177条の第三者とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものをいう
などとされ、第三者とされるためには、
当該物権変動の主張が認められると当該不動産に関する権利を失い、
又は負担を免れることができなくなることが必要であるところ、
本件では、土地所有者は、
登記を移転していない前建物所有者による建物の所有権喪失の主張が認められると、
建物所有権の隠れた移転によりその建物所有権の負担
(土地所有権を妨害された状態が継続するという負担)
を実質的に免れることができない地位にあるとみることができるともいえる。
「本件では」は、その後に建物の話をしていることから、
「本問の事案(甲トラックの事案)では」という意味ではなく、
「建物によって土地所有権の妨害をしている場合には」という意味で読むべきか。
〔出題の趣旨〕続き
「他方で、土地所有者は土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になる
とまで評価することはできないとの反論をすればこの指摘は当たらないし、
そもそも違法な状態に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではない
ということもできる」
↑をどう読むか。
建物によって土地所有権の妨害をしている事案であっても、
「土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとまで評価することはできない」
「違法な状態に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではない」
と読むとすれば、
判例を批判的に読んでいることになりそう。
あるいは、
建物によって土地所有権の妨害をしている事案の場合は、
土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になる。
「他方で」
甲トラックの事案では、
「土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとまで評価することはできない」
と読むのか。
この場合、
所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態ではないので、
「違法な状態に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではない」
(所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態の場合には、
対抗問題類似の関係とみることも適切ではないとまではいえない)
と読むことになりそう。
〔出題の趣旨〕
「③ 建物を譲渡した元所有者は、その建物を所有する旨の登記を自らしたのであれば、
その名義の移転をすることも当然にできたはずであり、
登記懈怠の責めを問われても仕方がないことを指摘することができる」
前記判例の「他方」から続く部分とリンクする。
〔出題の趣旨〕
「他方で、所有権留保売買は、
被担保債権の弁済まで登記又は登録を売主名義のままにしておくことが当然の前提であり、
そのことも含めて判例上承認されていることから、
売主に登記懈怠の責めを負わせることは適当ではないともいえると考えられる」
〔出題の趣旨〕
「このほか、建物の撤去とは、通常、建物の取壊しであることから、
その費用を負担しさえすれば誰でもすることができるため、
建物所有権を有しない登記名義人に追わせることも可能であるが、
自動車については、前登録名義人は真の所有者の所在が判明するまで
自動車を保管し続けなければならないという負担を負い続けることになりかねず、
その金銭負担も重いものとなる可能性があるという事情も指摘することができる」
〔出題の趣旨〕
「解答に当たっては、以上に例示した事情の全部を挙げることが求められるのではなく、
根幹的と思われる理由を挙げて結論を正当化することで十分である」
〔出題の趣旨〕続き
「もっとも、結論を正当化する際には、
その結論を根拠づける方向に働く事情を挙げるだけでなく、
反対の結論を根拠づける方向に働く事情も考慮し、
それに応接することが望ましい」
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