1 設問の確認
会社法第174条の趣旨を踏まえつつ、
本件請求の効力を否定するために
Bの立場において考えられる主張及びその主張の当否について、
論じなさい。
2 会社法第174条
(1)期待されていること
〔採点実感〕
「同条の趣旨を考えた上で、
その文言及び事案を踏まえて、
適切な法令の解釈及び適用がされることが期待されている」
(2)条文
(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
株式会社は、
相続その他の一般承継により当該株式会社の株式
(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、
当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を
定款で定めることができる。
(3)趣旨
〔出題の趣旨〕
「譲渡制限株式の相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)の趣旨は、
株式会社が、定款にその旨の定めを設けることにより、
相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、
当該譲渡制限株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができることとし、
当該株式会社にとって必ずしも好ましくない者が
当該株式会社の株主となることを防ぐことができるようにすることにある」
3 判断枠組み
〔出題の趣旨〕
会社法第174条の趣旨を「踏まえつつ、
本件請求の適否について、
具体的に検討することが求められる」
〔採点実感〕
「臨時株主総会における
甲社がBに対して売渡の請求しの請求をすることに関する議案を可決した決議について、
①会社法第175条第2項本文に基づき、Bを除いた上で、
Cのみが議決権を行使しているが、
Cが特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによる
著しく不当な決議に該当するか否か(会社法第831条第1項第3号)、
②決議の内容が法令に違反するか否か(同法第830条第2項)、
又は③決議の内容が定款(定款の趣旨)に違反するか否か(同法第831条第1項2号)、
及び当該決議が取り消され、又は無効であることが確認されることにより、
本件請求が効力を生じないこととなること
などについて、検討することが期待される」
4 本件請求の適否の検討
〔出題の趣旨〕
「その際には、Bは甲株式会社を相続する前から甲社の株主であったこと」
「Bが相続した甲社株式450株の全部についてではなく、
Cが甲社の総株主の議決権の過半数を確保するために
最低限必要な401株についてのみ、
甲社がBに対して売渡しの請求をすることとしたこと」
〔採点実感〕
「Aが取締役を退任した後はCも取締役を退任して
Bが代表取締役社長を務める旨のAC間の合意が存在していたにもかかわらず、
Cが代表取締役社長の地位にとどまるため、
総株主の議決権の過半数を確保するために必要な限度で、
本件請求がされたこと」
〔出題の趣旨〕
「他方で、会社法174条の文言上は、
これらのことにより、
譲渡制限株式の相続人等に対する売渡しの請求が
不適法となるとは規定されていないこと」
「甲社定款第9条の定めは設立当初から設けられていたこと」
〔出題の趣旨〕
「などの諸事情を総合的に考慮して、説得的に論ずることが求められる」
〔採点実感〕
「本件請求は会社法第174条又は定款第9条に違反するということができるかどうかについて、
適用条文の文言と条文の適用結果の相当性の
両方を意識して説得的に論ずることが求められる」
「本件請求をすることを肯定する立場からは、
同法第174条以下及び定款第9条の
形式的な適用結果が不相当とまではいうことができないことを
…論ずることが期待される」
「本件請求の効力を肯定する立場から、
既存株主に対する請求又は一部取得の請求は
いずれも会社法上禁止されておらず、
臨時株主総会決議においてCのみが議決権を行使したことは
会社法の明文に合致することを指摘するもの」
は優秀又は良好に該当する答案。
「本件請求をすることを否定する立場からは、
条文の形式的な適用結果が不相当であることに加え、
趣旨に照らした文言の限定解釈や権利濫用の法理により、
同法第174条以下及び定款第9条の文言や適用場面を限定的に解釈し得ることを、
…論ずることが期待される」
「本件請求の効力を否定する立場から、
支配権維持のための取得であることを丁寧に認定し、
趣旨に立ち戻って
会社法第174条以下及び定款第9条の文言の限定解釈や権利濫用の法理により、
同法第174条以下及び定款第9条の文言や適用場面を限定的に解釈した上で、
臨時株主総会の決議の取消し又は向うについて論ずるもの」
は優秀又は良好に該当する答案。
「法令及び定款の文言上、
認められていないわけではない請求を否定するためには、
条文の形式的な適用結果が不相当なものであることや
条文の文言の実質的な解釈等を
説得的に論ずることが望ましい」
「問題文中において、
Bの提案に従いAC間でされた合意については、
これを株主全員による株主間契約であると解する余地があり、
本件請求は、文言上、同条に反しないとしつつ、
当該合意が実質的に株主全員によるものである
ということができるかどうかを丁寧に検討し、
当該合意との関係で本件請求の効力を論ずる答案には
高い評価を与えた」
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